『息子の部屋』

監督:ナンニ・モレッティ

久々の鑑賞。モレッティが港をジョギングしている冒頭の場面から引き込まれます。また、バックに流れるニコラ・ピオヴァーニの音楽が素晴らしいんですよね。ニーノ・ロータといい、モリコーネといい、イタリア人が作る映画音楽って、何でこうもモウレツに心を揺さぶるのでしょうか。それにしても、この作品はモレッティらしいからぬ、と言うか、まさに直球勝負って感じのドラマに仕上がっています。モレッティの作品は常に"大真面目"と"悪ふざけ"が分裂しながらも共存している捉えどころの無さが特徴なのですが、本作ではほぼ大真面目な部分だけで作られているんですよね。ほぼ、と言ったのは、モレッティの奇人的な面が、たまにちょろっと顔を出すからなんです。ファン的にはそれがすごく愉快だったりするのですが(笑)。息子が死んだ直後にモレッティが遊園地のヘンテコな絶叫マシーンに神妙な顔つきで乗っているシーンなんて、すごく深刻なシチュエーションなのに笑わずにはいられないんですよね。まぁこれは私がただ不謹慎なだけなのかもしれませんが、明らかに奇妙な演出であることには違いありません。たとえ家族であってもすべて分かり合っているわけではない、むしろそのことには無自覚で、お互い分かり合った気になっているだけなのではないか?本当のコミュニケーションとはどういうことなのか?"息子の部屋"というのは、そのことを象徴する存在なのかもしれません。"息子の部屋"の写真を見て号泣するモレッティの心中には、後悔と自責の思いが溢れていたのでしょうか。今まで一人称的な、散文調の映画ばかりを撮ってきたモレッティが、家族を通して描く人間相互のデリケートな関係性に目を向けたというのは何とも意外であり感動的でもあったわけなんですが、それほど実生活での息子の誕生は、モレッティの心境に大きな変化をもたらしたということなんでしょうねぇ。最後の予定外の深夜ドライブから国境へ行ってしまうシークエンスは何度観ても素晴らしいです。濃密で豊かな映画的時間。ゆったり浜辺を歩く家族の後姿、淡々と流れる「バイ・ディス・リバー」。やっぱりジーンときてしまいます。