『バルタザールどこへ行く』 ■■■■

監督:ロベール・ブレッソン
ロバによる聖なる「受難」を介して人間存在の闇の深さを浮き彫りにする宗教寓話。一切の感情表現や誇張表現を排除したストイックな演出スタイルが、限りなく厳しく美しい物語へと昇華させています。随所で閃光のようにモンタージュされる人間やロバの手足のアップが鮮烈ですね。いやファースト・ショットからして素晴らしいんです(画面左上からスーッと現われて子ロバの頭をさする手の艶かしさ!)。音の使い方も繊細にして大胆。反復されるロバの鳴き声、反復される爆竹の炸裂音、さりげなく鋭く耳に響く環境音。一見静謐そのものと言って良い作品なんですが、視聴覚の暴力性は極めて高いので、淡々としているのに心は全く落ち着かないんですよね(笑)。そして何と言っても凄いのが「ロバの目」。あるがまま、自然のままの表情が、恐ろしく悲哀に満ちた残酷な運命を感じさせます。俳優を"モデル"と称してマネキンの如く扱ったブレッソンにとってはある意味理想的な動物だったのかもしれません。あらゆる感情を麻痺させる戦慄のラストシーン。思わず絶句。

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盤質。画質は並の下といった感じでしょうか。人が動いた時の不安定な映像が気になります。ところでブレッソンと言えばやっと本国フランスでDVDがリリースされますね。『ジャンヌ・ダルク裁判』『ラルジャン』『スリ』の3本セット仕様です。メーカーが「mk2」なので大いに期待できそうですね。