『壬生義士伝』 ■□

監督:滝田洋二郎

バカ丁寧な語り口と描写。一般的にはそれが安心して観れるし分かり易いということになるのかもしれませんが、私には明らかに余計で冗長なだけのありがた迷惑なものでしかありませんでした。私は山中貞雄ビクトル・エリセの映画を観て、"省略"が映画的な豊かさを生み出す決定的な手法であることを思い知りましたが、『壬生義士伝』はその意味で、何もかも描くことによって映画が死んでしまった凡作と言わざるを得ません。斉藤一との緊張感のある微妙な対立関係が描かれる前半部はなかなか面白かったんですよね。でも後半が酷かった・・・。もう蛇足も蛇足。山田洋次の『たそがれ清兵衛』もそうでしたが、感動を無理矢理押し付けるかのような後日譚にはゲンナリさせられます。ここまでされると作品への想像力が失われてしまって、余韻も何もあったものではありません。映画における涙は極めてデリケートな存在であるべきだと思うのですが、『壬生義士伝』ではあまりにも安易に大量に涙が描かれてしまっているんですよね。この演出のデリカシーの無さ。いくら俳優が良くてもこれでは台無しです。中井貴一はとても素晴らしかった。キャラ造形は『雨あがる』の寺尾聡に似ているのですが、ユーモアがあるぶん前者の方が圧倒的に魅力があります。それと盛岡弁!何とも温もりのある響き。牛鍋やメロンを下品に食べる(笑)塩見三省近藤勇も少ない出番ながら良い味を出してました。それと堺雅人の沖田、ニヤニヤ顔で斬りまくる。ヘン。