『大酔侠』 ■■■□

監督:キン・フー

キン・フーは面白いですね。ゆったりとした所作と弾むようなリズムのカット割りという一見ミスマッチな組み合わせが、優雅で美しく(投げ銭を箸ですくい取るチェン・ペイペイの手の動き!)、それでいて躍動感のある何ともユニークなアクション様式を生み出し、物語は脚本の簡潔さとは裏腹に不自然なほど緩慢に展開していきます。独特のテンポがあるんですよね。また、二つの軸の対立構造が草原での決戦(チェン・ペイペイ率いる美女剣士軍団の唐突さ!笑)という形で曖昧と混沌の内に収束へ向かうのかと思いきや、そこから更に次の決闘へと繋がっていく過剰さ。そのシンプルさから敢えて逸脱していくかのようなチグハグな世界がキン・フー作品の魅力なのかもしれません。音も良いんです。剣劇シーンでは音楽を流さないことによって、剣と剣がぶつかり合う金属音や人の声が実に生々しく響いてきます。何か物を投げた時の音なんて最高ですね。まるでジャック・タチのようなお茶目な効果音(笑)。吹き出る血、大きな扇子の開閉、クッキーみたいに折れちゃう剣、派手に上がる水しぶき、など視覚的にもすこぶる楽しいんですよね〜。あとはやっぱり女剣士チェン・ペイペイの格好良さでしょう。凛々しい表情とクールな美しさ、二丁短剣の踊るような立ち回りも素晴らしいです。ボスキャラの造形もケレン味たっぷり。いや〜"映画"がほとばしってます。