『ぼくの伯父さんの休暇』 ■■■■■

監督:ジャック・タチ

『大酔侠』の影響で再見。いや〜やっぱり何度観ても良いですね。ユロ氏が巻き起こす徹底的に無自覚なトラブルメーカーっぷり。セリフを極力排した「動き」によるギャグは否が応にもチャップリンサイレント映画を想起させますが、自ら積極的に笑わせるのではなくあくまでも受け身の姿勢から生みだされる笑い、長身でロングコートでヨレヨレ帽子でパイプをくわえるお茶目な挙動不審者ムッシュ・ユロの存在は、極めて特異な光彩を放っているんですよね。イノセントな笑いが徐々にエスカレートしていって遂には常軌を逸した過激な花火ギャグとなり、また冒頭と同じ穏やかな海辺の日常へと戻っていく構成も秀逸です。そして何と言っても素晴らしいのはタチならではのユニークな効果音の数々。そのパラノイア的とも言えるこだわり。極端な話、映像を消して音だけ聴いていても十分に楽しめてしまうのがタチの映画なんです。いちいち挙げていくとキリがないのですが、とりあえず一番のお気に入りはユロ氏がテニス・ラケットでボールを打った時の音でしょうか。とてつもなくヘンです(笑)。打つ前の意味不明なアクションも可笑しいんですよね。他にもユロ氏が乗るポンコツ車(でもエンジン音は凶暴!笑)とか、映画的な舞台装置として鮮やかにフィルムに定着された坂道とか、伸びるアイスとか、『荒武者キートン』を思わせる真っ二つに折れる船とか、チャーミングな英国老婦人(タチの作品に出てくる英語を喋る女性は何故みんな良い人なのだろうか?)とか、バカンス・ムード漂うテーマ音楽とか、とにかくひたすら愛おしい映画です。