『LOVERS』 ■■□

監督:チャン・イーモウ

う〜ん、映像が綺麗すぎたのか、はたまたスローモーション多用のアクションのせいで集中力が散漫になったのか、登場人物にほとんど感情移入することができず、よって何とも中途半端な作品という印象しか持てませんでした。ところで背景の色彩や天候が、唐突かつ大胆に変わる演出は歌舞伎の影響なんでしょうか?ただイーモウは処女作『紅いコーリャン』の時すでに皆既日食という奇手で画面を真っ赤に染め上げていますからね。やっぱりショットの人なんです。メロドラマでありながら人間ドラマが弱いのも、多分イーモウは承知の上であえて映像に淫することを選んでいるような気さえします。要するにメロドラマなんてはなから本気で描く気はなかったと(笑)。それは単調で大雑把なラブシーンの演出に顕著に現われていると言っても良いかもしれません。それにしてもイーモウの作風は90年代の後半以降どんどんとアクが抜けクセが取れ、言い換えれば退屈な娯楽作家になってしまい、『菊豆』や『紅夢』のような陰陰滅滅たる官能の世界が失われてしまったのが残念でなりません。あるいは文革世代という暗い影を背負い込んだまま映画を撮る必要がもはやなくなったということなのかもしれませんね。でも綺麗なだけの映像はすぐ飽きるものなんです。