『キング・オブ・コメディ』 ■■■□

監督:マーティン・スコセッシ

『タクシー・ドライバー』が陰の狂気なら、本作は陽の狂気でしょうか。デ・ニーロ演じるルパート・パプキンというキャラクター、私的にはスコセッシ作品の中で最もクレイジーで魅力的な愛すべき人物です(部屋がまた凄いのなんの^^;)。呆れるほどに芸達者なジェリー・ルイスと過激なストーカー女・サンドラ・バーンハードも絶品。ルイスが玩具拳銃の引き金を引くたびに彼女の腹筋がピクンッと動くシーンが妙に好きです(笑)。夢とも現実とも解釈できる結末が良いですね。寓話なんです。


ところで本作にはスコセッシの奇妙な悪戯というかお遊びがあります。それはパプキンが想いを寄せる女性リタとレストランで食事をする序盤のシーン。派手な身振りで喋りまくるパプキンの様子を、後ろの席で食事をしていた一人の中年男がさも興味深そうに楽しそうに眺めて(しまいにはパプキンの動きを真似てしまう)いたかと思うと、やにわに席を立って奥の公衆電話をかけに行くというもの。当然これは何かの伏線だろうと思っていたら、結局その中年男は再登場しないのです。「やられたぁ!」。そう、これは"マクガフィン"だったんですね。ちなみにこの中年男、レストラン・シーンのファースト・カットで後ろの席にいるのですが、リタがジュースのお代わりをウェイターに頼む「たった一言のカット」の間に忽然と姿を消してしまいます。まるで『めまい』でグラスの中の氷が一瞬で消えてしまったように。実はトイレ(?)に行っていたのか、少し経って、中年男は二人が坐るテーブルの脇を通り過ぎながら意味ありげに一瞥して元の席に戻ります。その際、デ・ニーロも中年男の気配を感じ取ったような素振りを見せます。そして中年男の観察が始まり、それに気付いたのかリタも一度だけ中年男に視線を向けるのです。ここまでやっておきながら、本筋とは何の関係もないんですからねぇ。まんまと一杯食わされました(笑)。ひょっとしたら、この謎の中年男は単なるカメオ出演だったのかもしれません。ショービジネス界の著名人なんでしょうか?誰か教えて〜。