『ベルリン 天使の詩』のコメンタリーを観る。

v-erice2005-03-17


良いコメンタリーでした。ヴェンダースの要点をおさえた懇切丁寧な解説。作品に対する理解がグンと深まって、ますます好きになりましたねぇ。そしてヴェンダースの映画であり、アンリ・アルカンの映画でもあるということがよく分かりました。撮影当時84歳だったというこの偉大なる撮影監督の映像、とりわけ白黒パートの美しい夜間撮影、室内撮影における細緻を極めた照明ワーク、ブルーノ・ガンツが鏡ごしにソルヴェイグ・ドマルタンを見つめるシーンのトリックはどれも驚嘆に値します。まさに光と影の魔術師ですね。ヴェンダースが繰り返し発した「魔法」という言葉に深く頷いてしまったのでした。ちなみにアルカンは『ことの次第』のキャメラマンでもあります。この作品は全編白黒で最後の夜間シーンがやはり素晴らしいんですよね。劇中ではサミュエル・フラーが「カラーより白黒のほうがリアルだ」と言います。良いセリフです。閑話休題。本作の見せ場の一つであるソルヴェイグ・ドマルタン空中ブランコとロープ芸は全てスタントなし、命綱もネットもなしで演じられているそうです。本番でバランスを崩すスリリングなシーンは演出ではなかったのかも?(笑)。彼女は撮影後にそのままサーカス団に残れるほどのレベルに達していたそうです。また本作は壁が崩壊するわずか3年前のベルリンが舞台であり、現在は失われてしまった風景の数々が収められている貴重な記録映画でもあります。ホメロスを演じる老優クルト・ボウワのこと、天使が集まる公共図書館のこと、ピーター・フォークのこと、ハントケのこと、エキストラのこと、とにかく作品のファンなら必ず楽しめること間違いなしのコメンタリーです。ぜひBOXだけではなく単品発売もして欲しいですね。新たなヴェンダース・ファン獲得のためにも(何とも地味ではありますが^^;)。最後は本コメンタリーからヴェンダースの印象的な語りを引用(ちょっと長いです)して締めたいと思います。


僕の天使トリュフォータルコフスキー、小津に映画を捧げたが、実は熟考して作った映画ではないんだ。最後のクレジットを作っている時に突然思いついた。この映画が誰かのお陰なら、それは特定の1人の監督ではなく、この3人の映画における精神性のお陰だと。彼らのことを今も考える。タルコフスキートリュフォー、小津を。天使のような人物としてね。心の導き手だ。タルコフスキーほど形而上学的領域に乗り出した者はいない。小津ほど登場人物を愛した者はいないだろう。トリュフォー作品以上に優しい映像言語はない。撮影後に思ったんだ。"彼らの作品がこの映画を撮らせた"と。僕はこの映画を自然な形で撮った。撮り終えるまで何も意識せず詩を書くように作った。それでも時には"僕は何をしてるのか"。"守護天使の映画を撮るなんてどうかしてる"と。でもやめるわけにはいかなかった。それからは何も考えず、とにかく頑張って撮影を続けた。心を込めて。哲学的な映画にする気はなかったが、今こうして改めてこの作品を見ると、製作過程よりもずっと哲学的になった気がする。撮影中にはまったく意識していなかった。それで3人に捧げた。無意識の僕の心に誰かが影響を与えたとしたら、それはタルコフスキートリュフォーと小津だ。


[画像解説]

後ろの建物の壁に書かれている文字は「これを建てたものは進んで爆弾も投げるだろう」という意味だそうです。