『肉体の冠』 ■■■■□

監督:ジャック・ベッケル

冒頭から抜群に良いですね〜。風景と女性の匂い立つような、それでいて爽やかな官能に溢れたショットの美しさは、まさしくジャン・ルノワール的映像世界の系譜です。セルジュ・レジアニが川辺に寝そべるシーンはまるで『素晴らしき放浪者』のような幸福感に満ちています。そして川から流れてくるのはミシェル・シモンではなく小船に乗ったシモーヌ・シニョレなんですね。がっしりした体格のどちらかと言えばファニーフェイス。でも素晴らしく魅力的な笑顔を持った可愛らしい女優です。ワルツの回転運動、頻出する馬車(西部劇を例に出すまでもなく、馬車は最高に映画的な乗り物の一つです)、窓枠を巧みに利用した奥行きのある構図(『ピクニック』を彷彿させます)、映像がにわかに活気づく平手打ち、感情を排した演出の簡潔さゆえに刺すような鋭さを持ったラストシーン。全編が映画そのものの醍醐味という感じです。フレンチ・フィルムノワールの嚆矢にして決定版。

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盤質。画質は標準レベル。それより問題なのは音ですね。ところどころで急に音レベルが下がったり、醜いノイズが入ったりします。マスター素材に起因するものとは言えこれにはちょっと閉口でした。つい最近クライテリオン盤がリリースされたばかりなので、いずれは購入したいですね。