『幌馬車』 ■■■□

監督:ジョン・フォード

"旅"の西部劇。約束の地を目指すモルモン教徒の幌馬車隊に、護衛の馬喰(ばくろう)、薬売りの一座、ならず者一家が加わっていく多彩な集団構成が面白いですね。そこから生まれる融和と緊張の人間ドラマ。派手なアクションはないのですが、移動やダンスや野営のシーンにはフォードならではのダイナミックな描写、ユーモア感覚、そして詩情があります。しかし最も魅力的なのはキャスティングでしょう。鮮やかな手綱さばきでインディアンを振り切るベン・ジョンソンを始め、ワード・ボンド、ジョーン・ドルー、ハリー・ケリーJr、ハンク・ウォーデン、いずれも個性豊かな面々。角笛を吹くジェーン・ダーウェルも絶品でした。容姿と笛の音が何ともユーモラス。エリセの『ミツバチのささやき』冒頭に登場する印象的な呼び込みのおばさん、きっとジェーン・ダーウェルへのオマージュだったんですね。それと意表を突かれたのが、最後の恐ろしく簡潔なガンファイト。ふとキューブリックの『現金に体を張れ』の誰が、いつ、どの弾丸に当たって倒れたのか判別できないほど呆気なく描かれたあの見事な銃撃戦を思い出しました。やっぱりフォードは最高。素晴らしい小品です。