『冬冬(トントン)の夏休み』 ■■■■□

監督:侯孝賢

鄙びた駅舎、巨木と廟、川遊び、板廊下の艶、家のすぐ近くを通る電車。まるで自分が持つ田舎の原風景そのものが映画になったような強烈なノスタルジー。しかし、そんな詩情溢れる情景が淡々と流れていく中、突如現われるスリリングな瞬間。トントンの妹ティンティンが線路の上で転んでしまい、手ぶれキャメラの主観ショットになる。その直後、画面横から滑り込んでくる電車の凶暴なまでのスピード感には心臓が凍りつくような戦慄が走ります。音は繊細で生々しい存在感がありながら、同時にサイレント映画のような画面造形、人の動かし方をしているのも感動的です。ロングショットも比類なき美しさ(素晴らしい構図!)。最後がまた良いんですよね。キャメラの素早いパンだけで喜劇的な状況を予感させてしまう巧みさ、叔父の呻き声が耳から離れません(笑)。本作は「仰げば尊し」で始まり、「赤とんぼ」で終わりますが、後者は『ミツバチのささやき』の、あの印象的なテーマ音楽に驚くほど似ています。ちなみにトントンの父親を演じているのはエドワード・ヤンです。