『パッション』 ■■■■

監督:ジャン=リュック・ゴダール

モノクロ映画のような強い光と影が画面を覆う屋内シーンと自然光による屋外シーンの鮮烈なコントラスト。少し流れては切られるクラシック音楽、鋭く入り込んでくる雑音(工場の機械音や車のクラクションや走行音)、登場人物の声音(吃音、咳き込み、叫び声)は不快感と快感がない交ぜになったような奇妙で繊細なリズムと刺激があります。それはまさに「音のモンタージュ」(by蓮實重彦)という表現がぴったりのラディカルな試みです。本作の主題は「光」と「音」ですが、語られるストーリーはいわゆるバックステージ物であり、その意味ではミュージカル(あまりにもゴダール的な)と言って良いのかもしれません。「物語がない」とプロデューサーに文句を言われ、資金難に陥った撮影クルーの元へ、アメリカの「MGM」が出資してくれるという報がもたらされるシーンは象徴的だし、終盤には踊る女性も出てきます。活人画の演出もユニークですね。「夜警」の光に当たって浮かび上がる少女についてのラウール・クタールの言葉(それに対応するように煌々と照らし出されるイザベル・ユペールのクローズアップ)、「小浴女」の長廻しと構図、「裸のマハ」の黒々しい陰毛(ゴダールは陰毛好きだ!笑)。それとスクリプターが車中でキスをしている男女に殴りかかるシーンで、3人の着ている服がさりげなくトリコロールになっているのもゴダールらしい諧謔です。