『都市の夏』 ■■□

御茶ノ水アテネ・フランセ文化センターにて。満席。年配の方もチラホラ。

監督:ヴィム・ヴェンダース

学校内にある上映施設なのでスクリーンは小さめです。さて本編。いや〜凄い。よくぞこれだけ退屈な映画を撮ったもんだ(笑)。でもハリウッド映画的な物語性を徹底して排除(および感情性の喪失)したらどうなるのかという無謀な実験精神はある種感動的ですらあります。短編小説なら3ページぐらいで語れる話を2時間以上の長編映画にしてしまったようなものですからね。ほぼ全編何も起きないフィックスの長廻しで構成された映像(一応切り返しも極僅かながら行われる)は、ゴダールの『勝手にしやがれ』とは違った方法で映画の破壊と再生を試みようとしたポスト・ヌーヴェルヴァーグ作家ヴェンダースの若き野心の現われなのかもしれません。それと「キンクスに捧ぐ」という副題が示すように、本作はヴェンダースのロックへの想いがストレートに表現された音楽映画でもあります。車がトンネルに入って画面が真っ暗になってもショットが持続し音楽だけが流れているところや、TVに映るキンクスのライブ映像を延々と見せるところなど、音楽を聴かせたいがために撮ったようなシーンが随所に出てきます。雪積もる街をひた歩くハンス・ツィシュラーを捉えた長廻しにラヴィン・スプーンフルの「サマー・イン・ザ・シティ」が流れてくるシーンが本作の白眉ではないでしょうか。それにしてもこの詰まらなさは尋常じゃない。眠ってしまう人が続出したのも当然でしょう(私は最初こそ眠気を催しましたが、それ以降はその只ならぬ退屈さに半ば戦慄し呆然と最後まで見入っていました)。正面に坐っていた白髪の老人がコクリともせずにスクリーンを凝視していたのが印象的です。ちなみにキャメラはロビー・ミュラー。デビュー前からコンビを組んでたんですね。確かに曇天で寒々しい閑散とした街の風景、その乾いたモノクロの味わいはその後のヴェンダースの映画のトーンを予感させます。ハンス・ツィシュラー演じる主人公は最後にアメリカへと旅立ちますが、それが『都会のアリス』のリュディガー・フォーグラーへ、そして『さすらい』の二人の出会いへと繋がってるんですね。そうそうジャームッシュが同じ卒業制作で『パーマネント・バケーション』という『都市の夏』と似たような映画を撮るのは興味深いです。或いはリメイクだったのかも?こちらは飛行機でなく船で外に出て行くんですね。

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近々『ランド・オブ・プレンティ』も観に行く予定。