『怒りの葡萄』 ■■■■□

v-erice2005-11-21


監督:ジョン・フォード

アントニオーニ?アンゲロプロス?と思わず眼をこすりたくなるような冒頭のロングショットでたちまち作品世界に引き込まれてしまいました。貧農家族の苦難の道行を描いたロードムービー。非常に硬質なプロレタリア・リアリズム映画ですが、ドキュメンタリー的な生々しさと抒情的な詩情が平然と同居しているフォードの映像感覚が単なる社会派ドラマではない映画ならではの美しさを生み出しています。全編を覆う重厚で艶やかな陰影、逆光と超ロングショット、パン・フォーカスによる力強い画面造形などグレッグ・トーランドキャメラにはただもうひたすら感嘆の溜息が出るばかりでした。俳優では母親演じるジェーン・ダーウェルが絶品でしたね。『東京物語』の東山千栄子のように素晴らしいです。彼女が旅立つヘンリー・フォンダを見送る場面のロングの切り返しが泣けます。『エル・スール』の父と娘が別れるグランド・ホテルの場面のあの切ないロングの切り返しはひょっとしたら『怒りの葡萄』が原典なのかもしれないとふと思ったりもしたのでした。フォード西部劇の幌馬車と同じ表情豊かな存在感を放つトラックも忘れ難いです。片輪走行の突発的スリルとユーモア。

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盤質。画質良好。平均ビットレートが低めなのでノイジーな画ですが十分に良質の黒白映像です。