『北西への道』 ■■■■

監督:キング・ヴィダー

行軍映画の大傑作ですね。あまりの素晴らしさにビックリしました。沼、山、河、丘という「映画映えする地形」を序盤はボートによって中盤以降は足によってひたすら兵士が進んでいく、その単純明快な運動が生み出す映像のダイナミズム。ボートの山越えやインディアンの描き方はまさに『フィツカラルド』や『地獄の黙示録』の原型ここにありと言った感じですし、兵士が急流を人間の鎖でもって渡河したり、沼沢地帯の倒木の上で眠るシーンなどの映画的興奮に満ちたスペクタクルな映像にもワクワクさせられます。そして圧巻なのは仏軍砦への襲撃シークエンスです。その執拗で一方的な殺戮行為は嫌悪感を抱きたくなるほど凄惨で、地面に転がる無数のインディアンの死体の異様な生々しさは、ルノワールの『ゲームの規則』同様、奇しくもナチスユダヤ人虐殺を予見してしまった映像と言えるのかもしれません。終盤の飢える軍隊を描いた部分も秀逸。グリフィスの「ラストミニッツレスキュー」的なカタルシスをこれ見よがしにではなく淡々と描写していくクールな演出にはシビれましたね。スペンサー・トレイシー演じる不屈の精神力と卓越した統率力とユーモアを持った指揮官の造形もお見事。残念なのはテクニカラー作品なのにDVD版は白黒だという点です。本来なら満点評価なのですが、オリジナルのカラー版ではないのでこの評価としました。