『百年恋歌』 ■■■■

監督:ホウ・シャオシェン

存命する映画監督の中で間違いなく世界の十傑に数えられるであろうホウ・シャオシェンのメロドラマをテーマにした短編が三本いっぺんに見れるとは何と言う贅沢だろう。やはりフィルムで見ておくべきだったと後悔することしきり。


「恋愛の夢

80年代のホウ・シャオシェンの作風を彷彿させる個人的に一番好きなエピソード。ビリヤードをする男チャン・チェンとそれを見つめる女スー・チー、この二人を緩やかなパンニングで官能的に映し出した冒頭の長廻しだけで完全にノックアウトされてしまった。ホウ・シャオシェンの魔術にかかれば「煙が目にしみる」と「雨と涙」がいともたやすく最上の映画音楽になってしまうのだから恐ろしい。手と手が繋がる瞬間の美しいクローズアップ。この慎ましいラブシーンこそ映画の豊かさに他ならない。


「自由の夢」

21世紀にサイレント映画を撮ってしまうホウ・シャオシェンは素敵だ。アキ・カウリスマキは『白い花』を律儀に白黒サイレントで撮ったが、ホウ・シャオシェンのサイレントはカラーであり、そこには単なる懐古趣味とは無縁の映画の現在に対する確かな視座があるように感じる*1。思えば80年代の彼の作品にはサイレント映画のような趣きがそこはかとなく画面から漂っていた。


「青春の夢」

90年代後半以降の演出スタイルにはまだ戸惑いがある。しかしクールで端正な画面造形の中にも確実にホウ・シャオシェンの"優しさ"は存在している。ところでバイクの走行シーンを撮らせたらホウ・シャオシェンは世界でも有数のシネアストではないだろうか。

*1:両作とも劇中人物の歌だけがトーキーになっている(『モダン・タイムス』の「ティティナ」のように)