『イーハトーブ幻想 Kenjiの春』 ■■■■

監督:河森正治

素晴らしい。Kenjiとトシの別れを描いた幻想美あふれるオープニング、宮沢賢治の精神世界がイメージの奔流となって溢れ出すペンシル・アニメーション(クレジットに前田真宏の名が!)のシークエンス、TV用アニメーションの域を軽々と超える非常に丁寧かつ繊細に仕上げられた作画のクオリティの高さ(参加アニメーターの錚々たる顔ぶれ!!)に思わず溜息が出てしまう。上々颱風による「アヴェ・マリア」の荘厳にして柔らかな旋律も見事だった。放送当時(1996年)まだ一般的ではなかったCGをピンポイントで効果的に使用している点も心憎い。河森正治と言えば『マクロス』だが、その作品で発揮されたラディカルな映像表現のセンスが、宮沢賢治の半生を描くアニメーションでこうも完璧なカタチで生かされることになろうとは。以後、河森正治による同じようなテイストの作品は作られていないが、これはあまりにも勿体無いような気がする。本人にその気がないのか、それともオファーするプロデューサーがいないのか。いずれにせよ河森正治はロボットアニメ監督という枠には収まらない作家であることは確かだ。アニメ好きならずとも一見の価値ある傑作である。

イーハトーブ幻想 ? KENJIの春 [DVD]

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