「エヴァ復活祭」第8夜

第拾伍話「嘘と沈黙」
(英題:Those women longed for the touch of others' lips,and thus invited their kisses)

恐らくエヴァ全編中で最も地味なエピソード。娯楽性は皆無だし実験的な映像もなし。エヴァは映りもしない。その分、他の回にはない丁寧で濃密な人間ドラマが展開される。面白いのはミサトと加持、シンジとアスカのキスシーンを続けて描写するところだ。どちらも半ば強引に唇を奪うカタチだが、演出が露骨に真面目と不真面目の対比になっているのが笑える。ちなみに第九話にも似たような演出があったが、こちらは淡白と濃厚の対比だった(笑)。英題は「女達は唇の感触を想い、彼らのキスを求めた」という意味。つまりミサトとアスカの心情を現しているのだろう。また本エピソードに限り、メインタイトルが白地に黒の文字で表示されている。これは表裏が判然としない人間心理のあべこべをタイトルで象徴させたのかもしれない。本当に芸の細かいアニメである。

[我的EVA言行録]

「ケッ、どいつもこいつも三十路だからって焦りやがって」by葛城ミサト


第拾六話「死に至る病、そして」(英題:Splitting of the Breast")

別宇宙へ繋がるという「ディラックの海」を備えた使徒の造型がユニーク。何やら難解な物理学用語がいろいろ出てきてよく分からないが、こういう超ハードな SF設定もエヴァの大きな魅力であることは間違いない。見所は何と言っても後半まるまる描かれるシンジの内面世界だろう。自分の中にいるもう一人の自分との対話というアプローチの仕方が面白い。以前の映像と新たな映像を非常に細かいカット割りで畳み掛けるように見せていく演出も見応えがある。またシンジ役・緒方恵美の演技が絶品で、聴き応えのあるエピソードであるとも言えるだろう。最後、暴走したエヴァ使徒の中から血しぶきを、そして、雄叫びを上げながら現れるシーンは圧巻。英題は「乳房の分裂」という意味の精神分析用語。同一対象へ向けられた愛と憎しみ(「良い乳房」と「悪い乳房」)の認識に対する防衛機制防衛機制とはネガティブな要素を無意識化して抑圧しようとする自我の働き、「乳房の分裂」とはその心理的過程を指している。それは二人のシンジのことであり、シンジの中の父ゲンドウ(悪い乳房)と母ユイ(良い乳房)を象徴しているという見方もできるだろう。ところで、この回は画質が良くない。オリジナル・ネガ紛失のせいで本編だけインターネガを使用しているからだが、解像度、発色ともに他と比べて明らかに劣っているのが残念。

[我的EVA言行録]

エヴァって何なの!」by葛城ミサト
「ただ、会いたかったんだ、もう一度」by碇シンジ