『彼岸花』

小津週間・二夜目。

監督:小津安二郎

娘の結婚をめぐる家族の悲喜交々。今や貴重とも言える封建的な父親像がストレートに、滑稽さを伴って明るく描かれる(亭主関白丸出しの佐分利信が娘の相手を恋敵のようにやっかむ姿が可笑しい)。キャスティングが絶品で、父と娘の間で大らかな知性を持って立ち回る母・田中絹代有馬稲子桑野みゆきの爽やかな姉妹、京都弁と着物姿が美しい山本富士子と絶妙なコメディエンヌぶりを見せる浪花千栄子の賑やかな親子、サラリーマンの悲哀炸裂の高橋貞二(笑)など、主要キャラから脇役まで見事に調和のとれた人物配置が素晴らしい。折り目正しく挿入されるシンプルな風景、茶の間に置かれた赤いポットの存在感、さりげない伏線と劇的なセリフが排除された脚本、小津映画のとことん厳格で洗練された映画表現美と、人間への真摯な眼差しが生み出す豊かな世界に、ただただ感動し、唸り、感嘆のため息を漏らすばかりだった。

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盤質。画質は良好。解像度が高く、発色も鮮やかです。古い作品なのでさすがにS/Nは良くありません。それと一箇所マスター欠損のためか画が極端に悪くなります。また動きのある場面でジャギーが目立ちますね。音は可もなく不可もなく。やはり鮮明さがいまひとつと言った感じです。