『秋刀魚の味』

小津週間、最後となる五夜目。

監督:小津安二郎

最後の作品も家族を、そして娘を嫁に出す父親を描いたホームドラマだった。笠智衆が相変わらず味のある柔らかい演技を見せくれる。場末のバー、軍艦マーチに乗せて笠智衆加東大介岸田今日子三者三様の表情で敬礼をするシーンが面白い。敗戦の痛みと戦後の豊かさが絡み合った、この時代の日本人の複雑な心情を象徴しているようだった(ヴェンダースの『東京画』には軍艦マーチを流すパチンコ店の映像が出てくる)。娘役の岩下志麻がすこぶる魅力的。着物姿で微笑むシーンの可愛らしさときたらちょっと尋常じゃない。こんな可憐な少女が後に「極妻」になってしまうんですね(笑)。最後に泥酔した笠智衆がふと洩らす「ひとりぼっちかぁ・・・」というセリフ。涙を見せたり、力なく佇む姿をロングで捉えるなど、他作に比べてウェットさが強調されている。本作撮影中に長年連れ添った母を失った小津安二郎の哀しみが強く反映されているからなのだろうか。

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盤質。冒頭、笠智衆中村伸郎がオフィスで話し合う場面が酷い。動きがコマ落ちのようにぎこちなくなり、セリフも若干ズレます。前後の場面との落差が激しすぎ。いくら原版がないとは言え、もうちょっと何とかして欲しかったかも。その他は良好。音も『秋日和』同様、そこそこ鮮明でした。