『東京暮色』

続・小津週間。最終となる第五夜目。

監督:小津安二郎

暗い。ひたすら暗い。小津映画にこんな重苦しい作品があったなんて驚き。主要人物のほとんどがネガティブな問題を抱えているし、映像自体も全体的に陰鬱な雰囲気(照明が薄暗い)で統一されている。まるで成瀬巳喜男の映画を観ているような印象を受けた。俳優では薄幸のヒロインを演じる有馬稲子が強烈。端整な顔立ちながら、終始暗い陰を宿した表情と淡白な態度は、まるで岩明均のマンガに登場する女性キャラの造形そのもの(笑)。貫禄だったのは、夫の問題で実家に戻ってきている長女・孝子を演じる原節子の存在感だ。取り立てて目立つ役ではないけれど、有馬稲子を寝かし付ける時の微妙な表情の変化や突如泣き崩れるところなど、要所で見せる表現力は圧巻。物語上の重要な場所として雀荘が頻繁に出てくるところも個人的には面白かった。それと『早春』でも使われていた明るく単調な音楽が作品の暗さを中和するように全編で流れている。暗さが頂点に達する後半のとある場面でも平然とバックに流れていたのが印象的だった。

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盤質。画質はかなり良い感じ。ノイズはほとんど気にならず、非常にスッキリと鮮明な黒白映像です。ただ音はややこもり気味でセリフも不明瞭。日本語字幕を見ないと意味がよく分からないセリフもいくつかありました。