『アメリカの友人』

監督:ヴィム・ヴェンダース

ヴェンダースヒッチコックをやったら?平凡な生活を営む額縁職人が、ある出会いをきっかけに暗殺者へとなっていく。穏やかに、緩やかに、張り詰めた緊張と光の映像美と共に。サスペンスであってサスペンスでないような奇妙な感覚。犯罪物語でありながら、ヴェンダースは優しさと孤独ばかりを執拗に追い続ける。舞台はハンブルグ、パリ、ニューヨーク。いずれも海や河に面している。主な登場人物はドイツ人の主人公、フランス人のマフィア、アメリカ人の詐欺師の3人。彼らを結び付けるのは英語だ。そこに黒い眼帯を付けた贋作画家、老マフィア、殺し屋が絡んでくる。彼らはみな映画作家でもある。主人公にそっと絆創膏をあてがうのはジャン・ユスターシュだったりもする。また主人公ヨナタンは、汽車が動いているように見えるランプの傘、ゾーアトロープ(回転のぞき絵)、ステレオスコープ、つまむとニヤける男の写真などを持っている。彼はキンクスの「僕の心に深く」やビートルズの「ドライブ・マイ・カー」を口ずさむ。ビートルズハンブルグの縁は深い。そして赤は至るところに存在している。緑や青だって負けていない。ロビー・ミュラーによって切り取られた寂寞感漂う街の風景に、これら原色は、痛いくらい目に沁み込んでくる。この映画には確かに物語がある、でも観ている内にそんなことはどうでも良くなってくる。ただ個々のショットで示される演出と色彩にひたすら浸っていたい。映画は脚本第一なのか?否、断じて否!映画は映像、ショットの美しさにこそ魅力のすべてがある、と感じさせてくれる、これは本当に稀有な作品だ。たった一語で表すなら「格好良い」、この言葉に尽きる。ヴェンダースの中でもひときわ輝きを放つ逸品。

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盤質。画質はややシュートが目立ち、ざらつき感がありますが良好です。解像度が高く、特に発色が素晴らしい。この北米盤で「アメリカの友人」の真の姿を見たような思いです。国内盤の褪色しきった映像では本作の魅力も半減以下になってしまうと言わざるを得ません。5.1ch化された音声も非常にクリアです。特典にはヴェンダースの解説による未公開シーン(約30分)が収録されていて、こちらも楽しめました(カチンコを打つヴェンダースのお茶目な映像とかあります)。