『トリコロール/赤の愛』

2週にわたったキェシロフスキ祭もいよいよ最後。第9夜目

監督:クシシュトフ・キェシロフスキ

仏国旗の赤は博愛を意味する。圧巻!犬を媒介にして生まれる老人と女性モデルの奇妙な交流。そして平行して描かれていく一組の男女の愛。それは老人が過去に失った愛でもある。トリッキーな脚本と演出に困惑しながらも、どんどん引き込まれていく。その不思議な吸引力。複雑に絡み合った糸が次第に解きほぐされていき、やがて一つに紡がれていく様はまさにキェシロフスキ魔術の面目躍如である。勿論赤は至るところに存在している。ズビグニエフ・プレイスネルの音楽も強烈な印象を残す。愛を再生していく老人ジャン・ルイ・トランティニャンの枯れた演技。そしてイレーネ・ジャコブの美しさ!広き愛をもった女性を柔らかな所作と表情で演じ、3部作のヒロインの中でも際立って魅力的な温かい存在感を見せてくれる。今回もやはり瓶を捨てる腰の曲がった老婆が登場する。彼女に手を貸してあげるのはイレーネ・ジャコブだけだ。また『青の愛』に出てくる鼠と『赤の愛』に出てくる犬が鮮やかな対比となって"博愛"の精神を強調している。たとえ鼠であっても犬と同じように慈しみをもって接する。そういう姿を容易に想像できてしまう説得力がイレーネ・ジャコブ演じるヒロインにはあると思う。最後の大仕掛けはキェシロフスキらしい壮大な戯れだった。

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盤質。画質は所々S/Nの悪さが気になるくらいで概ね良好です。音も十分合格点。