『1936年の日々』

監督:テオ・アンゲロプロス

ファシズム政権樹立直前のギリシャの混沌とした政治状況を描くことで、現・軍事独裁政権をアイロニカルに批判した硬質な映画。と言っても、劇中では何ら気の利いた説明が入るわけではなく、政治家を人質に刑務所の一室に篭城した囚人を巡って起こる出来事が、必要最小限のセリフと共に淡々と描かれていくだけなので、物語としては非常に分かり辛い。注釈や時代背景をきっちり踏まえた上でないと作品を理解することはできない思う。しかし、それでいて本作が素晴らしいと思えるのは、純粋にショットそのものが魅力的なのであり、映画的に極めて高度かつユニークな演出によって全編が構成されているからに他ならない。俯瞰の超ロングショット、360度パン(または720度パン!)、見せないことで想像力と映画空間を拡げるオフ・スクリーン、シンプルで力強い構図、長廻しが生む緊張感など、これらの技法が縦横に駆使されている映画は、観ているだけで面白いし興奮させられる。やっぱり映画はショットが総てなんだ、とアンゲロプロスの作品は教えてくれる。

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盤質。白点ノイズが少し目立ちますが、S/N、解像度、発色いずれも高レベルです。音もクリア。特典の解説リーフレットを読めば作品の理解もグンと深まります。個人的にはアンゲロプロスへのインタビュー記事が興味深かったですね。さ〜次は『旅芸人の記録』。久しぶりの再見だぁ〜!