『孤独な場所で』

監督:ニコラス・レイ

アンチ・ハリウッド精神に貫かれた異色ロマンス。殺人事件と男の暴力性、二つの不安要素が危ういながらも繋がっていた男女の関係を決定的な破滅へと導く。その過程が、適確なリズムと巧みな演出によってシャープに描かれていく。ボガートは神経症の脚本家を静かな凄みで演じ、その存在感は圧倒的。グロリア・グレアムも良い。キスシーンで見せる3度のまばたきは、愛情と疑念、相反する感情に揺れるヒロインを見事に表現している。ニコラス・レイの演出は、やや奇異な印象を受ける物語とは裏腹に、職人的な確固たる技術を感じさせるので、観ていてとても心地が良い。滑らかなカット繋ぎ、ビシッと決まった構図、美しいアップショット等々。それとスペイン風の中庭。華やかな舞台装置が物語の暗い性格と鮮やかなコントラストになっている。本作の持つ絶望的なまでの重さは、監督としての技量とは全く関係ない部分によってハリウッドを去らなければならかったレイの未来を予見しているようで切ない。呪われた50年代作家が残してくれた素晴らしい傑作。