『黒い罠 完全版』

監督:オーソン・ウェルズ

環境と状況によって変化していく、人間の善悪の相対性を描いたフィルム・ノワール。冒頭のクレーン撮影による鮮やかな長廻しで始まる本作はまさに映画技法の見本市。中でも接写による極端なあおりアングル(ほとんどの室内シーンで天井がくっきり映っている)の多用は、不気味な圧迫感と不安感を終始一貫して感じさせる巧妙な仕掛けになっていて、この映画の最も特徴的な部分と言える。他にも、繊細な照明による強烈な光と影のコントラスト、モーテルの不条理劇を思わせる展開、暴力シーンの躍動感溢れるモンタージュ、国境の歓楽街の空間造形、僅かな出演ながら忘れ難い印象を残すマレーネ・ディートリッヒなど、とにかく見所満載。やや掴み難い物語の流れでさえも、混沌とした雰囲気を醸成する一助になっているのだから恐れ入る。これだけアクの強い映像と演出とキャスティングでありながら、少しもこれ見よがし的にはならず、寧ろ、きっちり調和の取れた映画話法になってしまっているのだから、やっぱりオーソン・ウェルズという人は只者じゃない。

***********

盤質。アナモ収録。S/Nが良くありませんが、解像度と階調表現はまあまあと言った感じです。音は普通ですがセリフはこもり気味。字幕がちょっと不親切(二人のセリフが同時に表示されるので読み辛い)だったり、ジャケが格好悪いなどの欠点もあります。でもまあ1,500円ですからねぇ(^^;