『大砂塵』

監督:ニコラス・レイ

女同士の対決という設定がユニークな異色西部劇。マーセデス・マッケンブリッジの狂気にも似た悪女っぷりは瞠目に値するが、気高い存在感のジョーン・クロフォードにはさすがに一歩譲るだろう。強烈な意志を感じさせる目と威厳のあるセリフ回し。マッケンブリッジ率いる黒尽くめの男達を、一人、ピアノを弾きながら悠然と向い入れる姿の力強い美しさ。身に纏う純白のドレスは正義と非正義の対立構図をあからさまに際立たせる。本作にもニコラス・レイの痛烈な権力批判の精神が宿っている。悲劇性を強調しつつ、あくまで冷静に事態を見守るロングショットが印象深い。主人公ジョニー・ギターは、名前のインパクトとは裏腹に影が薄く、演じるスターリング・ヘイドンの容貌も地味だ。これもアンチ・ハリウッドな作風を好むニコラス・レイの確信犯的な仕掛けなのだろうか。酒場にしては妙に広々とした空間の造形、酒場内部の上階や崖の斜面に作られた小屋を巧みに用いた高低の構図のダイナミズムなどニコラス・レイの作品はいずれも舞台装置が素晴らしい。