『丹下左膳余話 百萬両の壷』

監督:山中貞雄

昭和モダニズムの香りが息づく軽妙洒脱な時代劇。小津安二郎といい、70年も昔の日本映画にはこんなにも洗練されたユーモア感覚があったのかと驚嘆しきり。まったくとんでもない面白さ!セリフが、ショットが、活き活きと躍動し爽やかな輝きを放っている。巧みな物語構成、省略の妙、鮮やかな伏線、同一構図の反復が生み出す心地良い視覚リズム、粋な小道具の数々、音楽、あらゆる要素が有機的に結合して、一つの完全なる映画世界を構築している。これはもう至福の快楽だ。大河内傳次郎の茶目っ気たっぷりな左膳も絶品。声にアクションに表情に、全身が魅力の塊り。いままで観てきた時代劇、いや邦画、いやいや全ての映画の中でもベストの一本になりそう。

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盤質。画質は思ったよりも悪くありません。フィルム傷が目立ちますし、S/Nもいまひとつですが、解像度はなかなか良く、黒の階調もしっかり出ています。音は文句なしですね。違和感があるくらい鮮明なので驚きました(笑)。セリフも明瞭。日本語字幕の助けを借りなくても十分に内容が理解できます。それと特典映像の「幻の場面」。わずか数秒程度の殺陣アクション(音なし)なんですが、ダイナミックでスピード感溢れる実に見応えのあるものでした。