『さすらい』

監督:ミケランジェロ・アントニオーニ

反ロマンス的なリアリズムが描き出す不毛な愛の情景。広大で、貧しく、どんよりとした、寒々しい風景が主人公の孤独を鮮明に浮き上がらせる。奥行きのあるシンプルな構図のロングショットは、限りなく寂しいが、同時に限りなく美しくもあるのだ。この感覚は、心地良いような悪いような、奇妙な後味を残す夢にどこか似ている気がする。アントニオーニの映像には自分の心を捉えて離さない、何か得体の知れない魅力がある。ラスト、物語の本筋として起こる出来事とは無関係に起こるもう一つの出来事、それが生み出す劇的な効果もまた得体の知れない魅力なのである。不気味だ。作中、淡々と流れる、サティのような簡素な旋律美をもった、暗く繊細な音楽が素晴らしい。

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盤質。予想に反してなかなか良い画質です。シュートやジャギーが気になるものの、解像度が高く、映像S/Nも悪くありません。黒の階調もしっかり出ています。少しだけI.V.Cを見直しました(笑)。でも相変わらず馬鹿でかい字幕だったのには閉口・・・。ケース内に封入されている、盤質についてのエクスキューズが記された紙もあざといだけで格好悪いです。ちなみに特典はキャスト&スタッフ、日野康一氏による作品解説、幻のドキュメンタリー『中国』の解説、といったテクスト資料と、本作『さすらい』を含むI.V.C製DVD5作品の予告編が収録されています。文革期の中国を克明に捉え、そのために現在も中国政府によって封印されているという『中国』、激しく観たいぞ!