『大いなる幻影』

監督:黒沢清

説話的な物語から極端に逸脱した、すっとんきょうな恋愛映画。2005年と微妙に近未来設定なのがミソ。淡々とした日常の断片の中に、さも当たり前のように顔を出すシュールな現象の数々が可笑しくもあり不気味でもある。一見ナンセンスだけれど、1999年当時に監督が抱いていた漠然たる未来への不安といったものを象徴的に表現しているのだと解釈すれば、かなり作品の見通しもよくなるような気がする。巨大な花粉が舞う公園に、マスクを付けた人々が歩いている姿は、まるで中国の「SARS」騒動を予見していたかのようだ。題名からしジャン・ルノワールの同名作品から取られている本作は、いろいろな監督への目配せが感じられる。ゴダールキューブリック、アントニオーニ、エドワード・ヤン等々。最後はモロに『時計仕掛けのオレンジ』と『欲望』かなぁなんて(笑)。

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新たに増えた銀盤

『野良犬』(クライテリオン盤)