『害虫』

監督:塩田明彦

これは塩田版の『テス』だ。美少女の受難譚。そう、かのグリフィスがリリアン・ギッシュを虐めて以来の伝統的な映画のモチーフである(笑)。簡潔な演出と静的なショットが生み出す心地良い映画のリズム。絶妙にズレていく反復ショットとか、意外性のあるカット繋ぎとか、もう心憎いほど鮮やか。突き放したような厳しい最後が切なくも清々しい。ナンバーガールの音楽も良かった。不安感と疾走感がない交ぜになったようなノイジーなギター音。「どこまでもいこう」、そして「月光の囁き」と、塩田明彦は質の高い小品を撮ることができる今の邦画界ではとても貴重な監督だと思う。