『スプリング−春へ』

監督:アボルファズル・ジャリリ

親と生き別れになってしまった少年と、森に住む孤独な老人の交流を描くことによって、戦争の罪悪性を浮き彫りにする。イラン北部の厳しい冬、雨がちで薄暗い森の雰囲気は、乾燥した荒野と容赦ない陽光が照りつける他のイラン映画とはだいぶ趣が異なっている。やがて訪れる春に希望を託し、少年を励ます老人の姿には、イラン・イラク戦争終結を望む監督の切実な想いが込められていたのだろうか。85年という戦争の最中に撮られた作品だけに、複雑な含みを持った、喜ぼうにも喜べないハッピー・エンディングになっている。音楽もひたすら哀しい。とても重い映画だった。