『ドッグヴィル』

監督:ラース・フォン・トリアー

"アメリカ"または"世界"を模して作られた「トリアーの箱庭」の中で描かれる人間の善悪の相対性。セットが極端に簡素化されている分、密度の高い人間ドラマになっている。ドラマ自体の出来が良いので、映像の変化に乏しい小さな空間内で展開される3時間の劇にもほとんど退屈することがなかった。共同体に紛れ込んだストレンジャーであるニコール・キッドマンは単なる物語的な存在としてだけではなく、生活科学、異文化、性革命などのメタファーとして捉えられるのが面白い。寓話性の強い作品だけれど、最後の最後に痛烈なアメリカ批判をぶちかますので、普遍的な寓話としての説得力がやや失われてしまうのが残念だった。人と社会の本質的な悲劇性を暴こうとするトリアーの冷厳な眼差しは良くも悪くも刺激的ではあった。ちなみにローレン・バコールとベン・ギャザラとジェームズ・カーンが出演している。エンドクレジットで流れる「ヤング・アメリカンズ」、そして次々と映し出される最下層の人々のスチルが印象的。この監督、やっぱ相当な皮肉屋だな(笑)。