『ロマン・ポランスキー短編全集』

監督:ロマン・ポランスキー

『殺人者』

ナイフによる殺人を描いた僅か1分半の短編。学生時の作品ということで、試しにちょっとヒッチコックをやってみた、ってな感じでしょうか。殺しを遂行した男が一瞬笑みを浮かべるのが不気味です。


『笑顔』

これも2分足らずの短編。描かれる二つの笑い。女性の裸を見てニヤける男、歯を磨きながら無意識的に笑い顔になってしまう男。どちらも薄気味悪いのがポイントですね(笑)。


『パーティを破壊せよ』

賑やかなパーティ会場が、不良グループの乱入でメチャクチャにされてしまうという暗い作品。映像の生々しい臨場感はまるでカサヴェテスの『アメリカの影』を見るようでした。


『タンスと二人の男』

シュールでユーモラスな短編。海からやってきた無垢で善人な二人の男が、常にタンスを持っていることから、ことごとく周りに除け者扱いにされてしまい、また海へと戻っていくという、何やら社会批判めいたホロ苦い寓話です。クシシュトフ・コメダの緩急のあるジャズ演奏が良いですね。


『灯り』

人形の店が火事になるというだけの作品なんですが、なすすべもなく焼かれていく人形たちの無残な姿は露骨にナチスによるユダヤ人大量虐殺を連想させます。外を行く人々がそのことを知ってか知らずか、平然と店の前を通り過ぎていく様が恐ろしかったです。


『天使たちが失墜するとき』

残酷で切ないファンタジー。過去をカラーで表現する演出や、最初と最後に映される街の俯瞰ショットをミニチュアにしてファンタジー色を強めているのが面白いです。映像がとても美しく、過去のシークエンスには後年の『テス』に繋がるような官能と叙情があります。ポランスキー自身が演じている老婆のメイキャップは必見の気持ち悪さ(笑)。白黒ということもあってとんでもなくリアルです。


『太った男と痩せた男』

これまたシュールな感覚炸裂の作品。太った男と痩せた男のユーモラスなやり取りは、近代におけるブルジョワとプロレタリアの関係に置き換えて揶揄しているようにも受け取れます。本作でもポランスキー自身が痩せた男をコミカルに演じています。ファーストモーションも効果的でしたね。


『哺乳動物たち』

スラップスティック調のナンセンス喜劇。全編にファーストモーションを使用した、人物の動きの掛け合いを楽しむ純粋コメディで、舞台が雪一面の世界というのがユニークです。やはりクシシュトフ・コメダの音楽が良い味を出しています。

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盤質。さすがにクライテリオン盤のマスターを使用しているだけあってキレのある黒白映像です。でもこの短編集って、クライテリオン盤だと『水の中のナイフ』の特典ディスクに収録されているんですよね(^^; 『天使たちが失墜するとき』以外はセリフもないので、それなら始めっからクライテリオン盤を買った方が良いんじゃないかという気もなきにしもあらずでした。何せ4,800円もしますからね。