『ゲームの規則』

監督:ジャン・ルノワール

狩猟場の館で繰り広げられるブルジョワ狂騒曲。"面白うてやがて悲しき祭りかな"を描いた悲喜劇です。個性豊かなキャラクターたちが館内を自由自在に動き回り、恋の遊戯に明け暮れるのですが、限定された空間だからこそ、人間のアクションによって生じる映像の躍動感が鮮やかに際立つというのが素晴らしいんですね。ベットに倒れこんだり、追いかけあったり、掴みあったり、転んだり、踊ったり、怒ったり、笑ったり。頽廃の世界を描いていながら、実に活き活きと生命力に溢れた輝ける人間の姿がそこにはあります。「ルノワールは状況ではなく人物を撮影する」というトリュフォーの言葉はまさに言い得て妙だと思いますね。また、狩猟場面における言葉のやりとり、兎を追い込む人々や兎の死ぬ描写や野に散らばる大量の屍骸には、その後の欧州大戦やナチスの暗い影(ゴダールは本作を「強制収容所を予言した映画だ」と言っていたそうです)を予感させますし、最後に起きる出来事も当時(39年)の時代背景の不吉と不安を象徴しているかのようです。優れた人間喜劇(ドタバタの要素もある!)であり、人間社会の縮図であり、人間の持つ本質的な悲劇性をも含んでいる、この多面的構造と普遍性が本作を映画史上の傑作たらしめているのだと思います。含蓄に富んだ名台詞の数々といい、何度でも観たくなるような懐の深い映画ですね。侯爵の仕掛け玩具のコレクションや、ルノワールが熊の着ぐるみ姿ではしゃぐシーン(笑)も忘れ難いです。