『路地へ 中上健次の残したフィルム』

監督:青山真治

何の変哲もない風景が淡々と流れながら、車は緩やかに目的地へと向かいます。作家・中上健次の故郷"路地へと"・・・しかし、それは既に失われています。映画監督・井土紀州が小説に描かれた"路地"を朗読するのは、分断された過去と現在を再統合するための儀式なのかもしれません。それに呼応するかのように挿入される在りし日の"路地"の情景の断片フィルムが鮮烈なイメージの対比となって目に突き刺さるのですが、それはもはや過去と現在が繋がらないことを残酷なまでに露呈させるのです。この作品は切なくも愛に満ちた中上健次への鎮魂歌だと言えます。最後に映し出される夕日に染まる紀州の海の閑寂な美しさ。中上健次の本を読んでみたくなりました。