『夜と霧』

監督:アラン・レネ

人類が犯した20世紀最大最悪の蛮行の記憶が、驚くほど簡潔なモンタージュと恐ろしく抑制されたナレーションによって静かに冷たく描かれていく。わずか30分という尺の中で示される映像と言葉、そのとてつもない重み・・・。開高健アウシュビッツについて"すべての言葉はナンセンスで枯葉一枚の役にも立たない"と言っている。確かにそうかもしれない。ひたすら沈黙するしかないような気がする。ただ、このドキュメンタリーが、人間はここまで堕ちることができるのだという事実の貴重な証左となっていることは間違いないだろう。本作の最後は以下の言葉で締めくくられている。


冷たい水が廃墟の溝を満たす
悪夢のように濁って
戦争は終わっていない
今 点呼場に集まるのは雑草だけ
見捨てられた町
火葬場は廃墟に ナチは過去となる
だが900万の霊がさまよう
我々の中のだれが戦争を警戒し知らせるのか
次の戦争を防げるのか
今もカポが将校が密告者が
隣にいる
信じる人 信じない人
廃墟の下に死んだ怪物を見つめる我々は
遠ざかる映像の前で希望が回復したふりをする
ある国のある時期の話と言い聞かせ
絶え間ない悲鳴に耳を貸さぬ我々がいる