『ぼくの伯父さん』 ■■■■

監督:ジャック・タチ

山の手と下町、父と息子、新しきものと古きもの。対立と融和、その脆く微妙な関係性。本作にはタチの平等の精神が強く反映されています。ユロ氏は物語をリードする主人公などではなく、かと言ってブルジョワ達のような極端に喜劇的な存在でも、空地や子供や犬といった二分化された世界を繋ぎ止める象徴的な存在でもありません。そのスタンスはどこまでも曖昧です。ユロ氏は作品世界の中の一住人(初登場の仕方も驚くほどさり気ない^^;)に過ぎなくて、笑いの見せ場はほとんどありません。と言うより登場するもの全てが何らかの喜劇性を持っているんですよね。この何とも不思議なスタイルが次の作品『プレイタイム』で「喜劇の民主主義」という形に結実します。途方もなく野心的な試みでありながら、見た目はとことん地味で控え目な、でも細部はキチガイじみているタチの喜劇、もうたまらなく好きですね。さて、『ぼくの伯父さん』の素晴らしくチャーミングな超モダン住宅のセットについても一言。とにかくユニークです。『建もの探訪』の渡辺篤史が見たら絶賛間違いなしでしょう(笑)。入口の扉、魚の噴水、庭の造形、イス、台所、丸窓、車庫、掃除機、ソファ、果ては植物に至るまで徹底的にデザイン化され、自動化された美術の数々。合理性を追求した結果、不合理極まりない状況を生んでしまうというアイロニーが実に愉快です。丸窓が目玉のように見える夜のシーンや、アパートの内部を移動するユロ氏を同一画面の中で見せるユーモラスなシーンなど視覚的な遊びもたっぷり。それと空地で揚げパンを売るオジサンが良いですね。パンの上に豪快に砂糖をまぶすシーンは、『タクシードライバー』でジョディ・フォスターがトーストの上にガンガン砂糖を降りかけるあの有名なシーンが重なって見えて思わず微笑んじゃいました。

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盤質。S/Nはあまり良くありませんが、解像度は高いですし発色もそこそこ。