『モンパルナスの灯』 ■■■□

監督:ジャック・ベッケル

伝記モノとして見ると物足りませんが、映画の旨味はたっぷり詰まっています。人間描写の天才ルノワールを師に持つベッケルならではの、人物とキャメラの緊密な関係が観ていて快感です。ジェラール・フィリップの暗い色気。苦悩する美男子を演じさせたらこの人の右に出る者はいないんじゃないでしょうか。しかしむしろ印象に残ったのは、彼と関わりを持つ人々、特に女性で、妻となるアヌーク・エーメ(う、美しい!)や愛人のリリー・パルマー、カフェの女給仕、花売りの少女(忘れ難いアップショット)、人妻のモデルなど実に華やかです。リノ・バンチュラ演じる死神のような画商も良いですね。モディリアーニに対する冷徹な眼差しと絵に対する秘めた欲望。最後、薄暗いモディリアーニの部屋で静かに激しく作品を眺め回す姿が何とも不気味であり、また圧巻でもあります。