『ケルベロス 地獄の番犬』 ■■□

監督:押井守

紅い眼鏡』の前日譚。前作とはだいぶ趣きが異なる作風で、少々ドタバタ風味が残ってはいるものの、雰囲気は後に作られるアニメ映画『人狼』に近い。しかしまともな映画話法というのは押井守の良さをスポイルしてしまうようだ(食い物絡みのシーンにはしっかり"らしさ"が出ているのだが)。実写だから余計にそう感じるのかもしれない。クライマックスの戦闘もかなり頑張ってはいるけれど、そこは低予算映画の特撮と美術(これはこれで味があるとは言え)の哀しさで『人狼』の描写の迫力には遠く及ばない。舞台となるのが陽光差す明るい建物内というのも状況とのコントラストが効いていて面白いには面白いのだが、やはり『人狼』のあの暗鬱たる地下水道の方がずっとドラマティックだしインパクトもあると思う。最も印象深かったのは台南のロケーションで、とりわけヒロインのスー・イーチンが路地のような狭い空間を歩いていく姿を後ろから延々と捉えた映像はなかなか魅力的だった。バックに流れる川井憲次のメランコリックな音楽がこれまた実にイイ感じなのだ。