『お引越し』 ■■■■■

v-erice2006-05-15


監督:相米慎二

相米慎二の最高傑作か。日本で撮られた最も傑出した児童映画の一本だと思う。離婚家族を描いたホームドラマは沢山あるし、少女の自立というテーマもありきたりだが、特異な作家性が炸裂する画面造形の力強さ(冷徹な眼差し、長廻しによる緩やかな時間の流れ、ロケーションと構図の魅力、高低差をつけた人物配置、火と雨のスペクタクル)は凡百の映画とは明らかに一線を画する。要するに映画的興奮に満ちたショットがわんさかあるのだ。ヒロインの田畑智子が祭りの喧騒を逃れ、夜の森を彷徨い、やがて琵琶湖畔へと辿り着く美しいシ−クエンスには、『ドイツ零年』や『ミツバチのささやき』のクライマックスが重なった。もちろん少女は自殺するわけでも精霊に会うわけでもない。哀しくもたくましい通過儀礼の儀式を幻視体験(この場面は本当に圧巻!)することによって大人への扉を開くのである。おそらく青山真治の『ユリイカ』も本作にかなりインスパイアされているのではないだろうか。それにしても相米映画のラストシーンは素晴らしい。いつも唸らされる。映画を愚直なまでに信じていなければ本作のようなタイトルバックは決して撮れないだろう。この作品がカンヌで無視された事実は、メジャーな映画祭がいかに信用できないかということの良い証左である。

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盤質。画質良好。メイキングでは相米監督の貴重な演出風景が拝めます。無愛想で噂どおり怖そうな感じ。常に煙草が指に挟まっていたのが印象的。これが彼の命取りになったんですね・・・。