『じゃリン子チエ 劇場版』 ■■■□

監督:高畑勲

漫画チックな荒唐無稽さと高畑リアリズムが良い塩梅に融け合ったナニワ人情喜劇の快作。作画監督である小田部羊一大塚康生の芸術的とも言える繊細な仕事が本作の大きな見所。美しい背景(これは美術の山本二三の功績も大か)、卓越した食べ物描写(好きでもないホルモン焼きがやたら美味そうに見える)、キメ細やかな表情描写(チエの顔がふとした瞬間美少女になってしまうとか、母ヨシ江の横顔とか)。久々に揃った家族が遊園地へ行くシークエンスはそこらの実写ホームドラマが束になっても叶わない良質の感動が味わえる(行きと帰りの電車シーンが何とも良いのだ)。惜しむらくは最後の小鉄とアントン・ジュニアの猫対決がそれほど盛り上がらないこと。これがクライマックスという構成はちょっと失敗なのかなという気がする。それにしても愛すべきアニメだ。